●Telephone●




「……Hello?」

ちょいとしたヤボ用でリョウの携帯電話をプッシュすれば、マイスイートハート。
いつまでたっても忘れられない、永遠の初恋の君・カオリが出た。
「……あら、ミック?ごめんなさい。リョウなら今、お風呂……って、あ、今、出たみたい。
ちょっと待ってね?リョウ~?ミックから電話よー?」
明るく、玉を転がすような心地よい声の響きとともに、携帯電話を手に、ぺたぺたと廊下を歩く音。
そして脱衣所にいたリョウをつかまえてのやり取りらしい、何やらごそごそとした音が聞こえてきた。



「おぅ……何だよ」
「あぁ……お前から頼まれてた、例の件。どうにかなりそうだ。
まぁ、念のため、先に伝えとこうかな、ってさ」
表立ってカオリの耳には入れたくない、裏の仕事。
その下調べを頼まれてたんだが、まだカオリが近くにいるらしいのを気遣い、
彼女に聞こえないよう、声をひそめれば。
「あぁ…そっか。さんきゅー」
と、のんきな声が返ってきた。
「……お前ねぇ、ほいほいと携帯、その辺に置いとくなよ。
カオリに知られたくない、ヤバい電話とかメールだったら、どーすんだ?」
「……んぁ?ンなの、俺の勝手だろ?俺がンなヘマするワケ……」
と、人を小バカにしたような口調のそれを打ち消すように、
元気よく跳びはねるような声が受話器から聞こえてきた。



「あ~……もう、リョウったら、よく拭いてこなかったでしょ。
髪、濡れたままじゃない。ほら……じっとして!!」
そんなカオリの声がしたと思えば、
「……るっせぇ……痛ぇだろ」
と、くぐくもったリョウの声と共に、タオルでごしごしとこする音。
なっ……まさかまさか、濡れた頭をカオリに拭いてもらってんのか……っ?!
「……リョウっ!!まさかカオリに、ごしごしされてんのかっ?!
おまっ……ンなコト香にさせてんのかっ?!」
さっきまでの小声はどこへやらと、受話器に向かって雄叫びあげれば。
「んぁ~?……るっせーよ、お前。何騒いでんだよ。用件済んだなら、切るぞ」
と、オレの言葉になど耳も貸さずに、一刀両断。
相変わらず、血も涙もないヤツだ。



「……なぁに?ミックの用件て、もう済んだの?」
「あぁ、たいしたじゃコトねぇ。駅前の新しいバーに行かないかって、誘いだよ」
……違うっ!!断じて違うぞっ!!
「また飲む話しなの?」
いかにも不機嫌そうな声が、ため息とともにこぼされる。
きっとあの美しい眉をひそめ、輝くばかりの茶色の瞳を曇らせているのだろう。
そして肩をすくめているであろうカオリの姿が目に浮かび、
そんなカオリの姿もキュートだよな、と、思わず悦にいるオレの耳に、悲しく響く、カオリの声。



「……ミック?またツケ、増やすだけなんだから、いい加減にしてよね?」
「……えっ?カ……カオリ、違うんだ。オレは飲みに行く誘いなんか……っ」
「そういうこった。じゃぁな、ミック」
……と、オレの言い分に耳も貸さず、笑みを含んだリョウの声が遠ざかり。
もうオレの存在なぞ忘れたというか、はじめからいなかったかのような、二人の世界が聞こえてくる。
「う~……すっかり冷えちまったぜ。もっかい、風呂入るわ。香ぃ、一緒に入ろーぜ♪」
……ぬぅわぁにぃ~っっっ?!
リョウっ!!お前ってヤツは、オレにただ働きさせた揚句、濡れ衣着せて。
さらにはそんな仕打ちをよこすのかっっっ?!!!(怒)



その一方、
「……もうっ。バカばっか言うんだから」
というカオリの声が聞こえるが、それが真剣な怒りでなく、
どこか艶めいたそれに聞こえるあたり、カオリもまんざらではなさそうで。
カ……カオリっ!!君までもっ!?(爆)
清純無垢な、天使のように清らかだった、オレの初恋。
永遠の女神だったのに……っ!!



艶を含んだカオリの声を最後に、通話はプツリと切れて。
ツーツーという無機質な機会音が、さらに物悲しさを倍増させた。
「ジ……ジーザス……っ」
何の返答もしない携帯電話を握りしめ、腹の底からの叫びをあげれば。
向かいのアパート、常ならば宵っ張りの二人が、
これからゆっくりと過ごすであろうリビングの明かりが……ふっと消えた。(号泣)




END    2012.6.26