柚子湯~ver.K●



「リョウ、お風呂上がったわよ。冷めない内にどうぞ」

「……おう」
「ふふ…今日は冬至で柚子湯にしたから、いい香りよ?
風邪ひかないように、ゆーっくりとあったまりなさいv」
「香……」
「………?」
「……一緒に入る、か?」
「なっ……何バカなコト言ってっっっ/////」



ハンマーを振り下ろそうとした時、リョウが苦い笑みを浮かべながら私を見つめた。
その苦さが「またか…」と「まだか…」という、両方の意味合いを含んでいるようで。
その切なげに歪められた瞳で見つめられたら、こちらも切なく、苦しくなって。
そして思わず、心拍数が跳ね上がる。
そんな私に苦笑しつつ、「じゃぁな」とバスルームに消えたリョウ。
リビングに一人、取り残されて。
張り詰めた緊張が解けて、そのままズルズルとソファに崩れ落ちた。



愛する者……リョウがそう言ってくれたあの日から、もう、どれくらい経つかしら。
そのまま普段の私たちに戻って、何も変らない日々を過ごしてはいるものの。
時々…射竦められるようなリョウの視線を感じて、身動きが出来なくなるコトがある。
男としてのリョウの瞳が、女としての私を欲する真っ直ぐなまなざし……。
私ったらいつの間に、そんな視線を感じ取れるようになったのかしら…/////



もちろん……そうなりたいと思ったコトが、無かったわけじゃ無い。
でも……正直、こわい。
それは恐怖とか怖れとか……そういったこわさでは無くて。
見知らぬ世界へ踏み入れることへの……未知なる世界への不安。
そして鋭く熱い視線をくれるリョウに、いつ私が降伏してしまうかという…。
喩えて言うなら、ライオンににらまれて動くことも儘ならない、小動物さながらに怯えた心…。
そう、そんな感じ……?



支度の出来たリョウが浴室内に入ったらしく、ふわりと柚子の香りが漂ってきた。
お菓子なんかにも使われる柚子だけど、果実そのものの味は、爽やかな酸味と…少しばかりの苦味。
そう…それはまるで、甘いお菓子にはなり切れない、私たちのようで……。
「Sweet になれるには……どうずればイイのかしらね…?」
自分でもどうすることも出来ないもどかしさに、ため息をこぼして。
寒さを増した凍空を、カーテンの隙間からそっと覗いた。




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